週間ダイヤモンド(ダイヤモンド社)2003年10月11日号で紹介いただきました
「都市経済特集 大阪 胴上げしたい中小企業」

   

創業一八七二(明治五年)。堺市の伝統産業である刃物製造の技を引き継ぐのが、
水野鍛錬所だ。「源昭忠」の商標で親しまれる和包丁は、料理人を中心に確固たる
信頼を得ている。また、海外にも熱狂的なファンがおり、インターネットを通じた注文も入る。
刃物の本場・ドイツのゾーリンゲンでも人気を博している。
その技術力を物語るエピソードは多い。例えば「ふぐ引き庖丁」を開発したのは同社。
また、法隆寺五重の塔のいちばん上にある、「九輪」に供えられた四本の魔除け鎌も奉納した。
しかし伝統的な鍛冶の仕事は、時代の変化とともに苦境に立たされてはいないのだろうか。
そんな問いに対して水野康行社長はこう説明した。
「確かに一〇年前は誰もつぶれるとは想像していなかった。
辞めていった人も多いが、今でも堺には五十軒ほど残っています。最近は従来以上に
「本物が欲しい」という要望が高まっていますよ」
特に切れ味一つで味を左右されるプロの料理人にとって、庖丁は生命線だ。
彼らの要望に応え続けられる限り、仕事の依頼はなくならない。
また最近では、釣り愛好家を中心として個人需要が伸びているという。
同社の仕事ぶりからは、日本人が高度成長のなかで見失ってきたものが数多く
浮かび上がる。たとえば道具に対する考え方だ。「鍛冶は「もっと使いやすい道具が欲しい」
というお客様の要望に応えることで仕事をしてきた。つまり、昔はみんな道具を自分に合わせようと
していたのです。それに比べ、今は人間が道具に合わせている」
道具は使うものであって使われるものではない。コンピューターの些細なトラブルに
対応できず右往左往する身には耳の痛い話だ。
また、料理人との関係も同様だ。
見習から始まり、魚を扱えるようになり、刺身を切れるようになる。
その成長の過程で同社は少しずつ扱いの難しい庖丁を提供し、
顧客である料理人の成長を見守る。人を育てる姿勢が息づいているのだ。
「スローライフ」という言葉があるが、同社の仕事は、いわばスロービジネスといえるだろう。
水野社長は言う。「道具は、使ってもらってこそ価値があるもの。生活の工夫を詰め込み、
お客様の要望に応えようとしているだけなのです。

      ※週間ダイヤモンド10月11日号記事(119〜220ページ)より引用